今回は起業に向けて頑張る女性からの相談の場として、同じ夢を持った仲間や、先輩起業家との橋渡しの役割も務める「じもじょき.netちとせ」代表の中塚茜さんに、活動や自らの仕事についてお話を伺いました。
「じもじょき.netちとせ」立ち上げから活動に携わってきた中塚さん。前任者から代表を引き継いだ当時は、さまざまな壁にぶつかったと言います。それでも仲間たちと活動を続け、今年ご自身も会社設立を成し遂げました。
「常に勉強」と話す中塚さんの魅力あふれる人物像に迫りました。
(取材日:2024年8月・インタビュー、文:稲田奈緒美)
北海道千歳市在住。2020年「じもじょき.netちとせ」に参加。加入1年後から代表を務める。2023年、主宰する「気候変動を考える会」で、月1回のイベントを通じて、地球環境の未来を考える機会をつくる。2024年2月、自らが代表となり「合同会社かくはなす」を創立。グラフィックレコーディング(以下:グラレコ)、ファシリテーター業務などを担う。
起業を目指す女性に寄り添う活動
稲田(以下、稲):「じもじょき.netちとせ」の活動内容についてお聞かせください。
中塚(以下、中):女性起業家支援ネットワーク「ほくじょき.net」や金融機関などと連携し、起業を目指す女性を応援する活動をしている団体です。全道各地にネットワークがあり、ちとせは2020年に立ち上がりました。「好きなことを仕事にしたいけど、何から始めたらよいかわからない。」「相談する先がない」「人脈を作りたい」「先輩起業家のお話を聞いてみたい」という方々と共に考え、応援するのが私たちの役割です。毎月プチセミナーやコワーキングタイムなどを開催しています。
稲:代表になったきっかけは?
中:前任者が就任1年で転居してしまうことになり、その方からの勧めで引き継ぐことになりました。
稲:戸惑うことはありませんでしたか?
中:最初は分からないことだらけで、前代表やメンバーに相談したり、本を読んだりしてチームビルディングについて学びました。ちとせは運営メンバーが6人と、他の地域よりも多いので、前代表はよくまとめていたなと思いましたね。
稲:コロナ禍に立ち上がったんですよね?
中:そうなんです。リアルで何かすることが難しい最中でしたので、Zoomを使ったオンラインでの活動が主でした。どうやってコミュニケーションを取っていいかは悩みましたね。
ポストコロナとなった今、チーム力も上がってきたように思いますが、チームとしての成熟度が増していけば悩みのレベルも上がっていくんですよね。メンバーそれぞれの強みも違うので、皆に助けてもらいながら活動を続けています。
「何ができるか」を共に探る
稲:「じもじょき.netちとせ」に参加されている方からはどんなご相談が多いですか?
中:こういうことを仕事にしたいけど、まず何から始めたらいい?といった内容は多いですね。運営メンバーもそうですが、実際に会社を作っている人はそれほど多くないんです。何をもって起業とするかはいろいろな考え方があると思いますが、会社を作りたい人、好きなことを広めて対価を得たい人…。家庭があったり、子育て中の方もいますので、その方のライフスタイルに合った方法を一緒に探すことから始めます。
稲:具体的にはどんなアドバイスをするのですか?
中:いきなり会社を作るというよりも、SNSの活用、イベントの主催などをおすすめしてみたり。ロゴマークやSNSの作り方といったデザインに関するご相談も多いですね。商品の写真やプロフィールなど、見せ方は大切なので、苦手な人であればデザイナーをご紹介することもできます。毎月行っているプチセミナーでは、起業した先輩からのアドバイスやサポートを受けられますし、他業種の方とのコミュニケーションの中で勉強になることは多いです。
子どもたちの将来に住み良い環境を
稲:中塚さんは環境問題にも取り組んでいますよね。
中:はい。昨年いっぱいは気候変動を考える「きこへん」の活動の中でさまざまな事例をもとに、月1回参加者と地球環境について考える機会を設けました。
市民団体「チトセコ」の活動では、市内でごみ拾いをしたり、市内の小学校に出向いて環境問題に対する周知活動のための出前授業も行っています。
稲:それらの問題に取り組むきっかけは何かありましたか?
中:私には2人の子どもがいるのですが、子どもたちが生きる未来が今より悪くなるのはいやだな、と思ったんです。地球温暖化などの環境問題もそうですし、社会問題で言うと子どもたちが大きくなった時に、今の日本のジェンダーギャップの状況で苦しんだりしてほしくないなとか。じもじょきの活動をはじめたきっかけの一つでもあります。
稲:環境と社会問題、どちらも中塚さんにとって身近で大切なことなんですね。
中塚:そうですね。今より良い状態で次の世代にバトンを渡すために活動は続けていきたいです。
活動を続けることで救われる人がいる
稲:「チトセコ」の活動もお仕事として行っているのですか?
中:出前授業に関しては千歳市との協働事業なので、お仕事として行っています。他には今年、楽しみながらごみ拾いを行う「CLEANGO(クリーンゴ)」というイベントを、e-水プロジェクトという助成事業に採択いただき、開催予定です。
稲:活動を続ける難しさはありますか?
中:こういった活動の運営に関しては、ボランティアとして進めていくのは無理があると感じることがあるんです。やはり資金を得ながら活動を続けていく必要があるなと。
稲:実際に活動するためには資金は不可欠ですよね。
中:そこにはそれぞれ考え方の違いが出てきますね。私は1年くらい前から、社会課題解決とビジネスを両立する「ソーシャルビジネス」という言葉に関心を持っています。そこを専門にしている企業も増えてきました。私はそういうことを進めていきたいと考えているのですが、中には“商売っ気”を嫌う人もいるかもしれません。ボランティアでごみ拾いをしていた時の私の方が好きだという人もいるかもしれませんね(笑)。
稲:何のために資金が必要なのかが問題ですよね。
中:数年前までは自分の思いだけで突っ走っていたんです。じもじょきの代表を預かって2年目くらいから、事業を継続していくためには、お金を出してくれている方たちに結果を示さなくてはいけない、ということを実感しました。収支はもちろん、イベントの参加人数も報告します。その数字がしっかりとした成果を出しているものでなければいけない。代表を預かることで、自分の思いだけの活動から変容していきましたね。
稲:潤沢に資金がある団体ばかりではないですしね。
中:そうですね。もちろん、ボランティアが大切な場面もあるので一概にすべてが、というわけではありません。ですが、社会にとって大切な事業や活動を持続可能に続けていくことは、その先にいる方々や、未来に繋がっていくと思っています。
動き出した自らの会社
稲:2024年2月に設立した「かくはなす」はどのような会社ですか?
中:グラレコとファシリテーションが主な事業内容です。脱炭素を進めるカードゲーム「脱炭素まちづくりカレッジ」の公認ファシリテーターを取得して、企業や自治体の方に向けた研修も行っています。
稲:カードゲームで環境問題が学べるのですか?
中:そうなんです。どういうプロジェクトを行っていけばCO2を減らせるのか、これからの数十年で何をしていけばいいのか、といったことをカードゲームを通じて学んでいきます。例えばリサイクル事業を行うとCO2が下がるとか。100あるCO2を4ターンで50にしていくゲームです。
稲:CO2を半減させるのがゲームの目的なんですね。
中:はい。2020年くらいから環境問題が気になり出して、自分たちには何ができるかを考えました。それと同時に、しっかりとそれらを仕事にしていくにはどういう方法があるのだろう、と調べて「脱炭素まちづくりファシリテーター」の資格を取得しました。
グラレコを武器に他地域でも活躍
稲:出張で遠方に行かれることもあるのですか?
中:はい。先日グラレコのお仕事で福岡に行ってきました。
稲:実際にどんな業務だったのですか?
中:企業としてどこを目指すべきなのか、社会においてこういうことを提供していますよ、という指針を可視化するお仕事です。大きい組織になるほどそれが社員全体に浸透していないことが多いんです。
稲:そうなると、どんな問題が出てくるのですか?
中:例えば、企業理念と合わない人材を社員として採用してしまうかもしれないですし、社員の中で会社が目指すものを認識できずに、齟齬が生じるかも知れないですよね。同じものを見て理解していく、相互理解を深めるお手伝い的な役割でしょうか。
稲:グラレコを使う利点はどんなところなんですか?
中:言葉で説明しても分かりにくい部分は出てくるんです。それを可視化することで、より伝わりやすくなるというところですね。企業紹介のスライドの中にグラレコを入れてもらったりしています。
仕事・家庭・活動のバランス
稲:よくある質問だと思いますが、家庭と仕事や活動との両立はどのようにしていますか?
中:うちは、夫と「家事育児を平等にしよう」という風にしていて、それがうまくできていると思いますね。「旦那さん優しいね」と言われることもありますが、そういうことじゃないよな、と。
稲:まだまだそういう意見はありがちですね(笑)
中:お互いの思いやりがあって実現していると思っています。夏休み中は子どもが学童に通っていましたが、その時のお弁当は夫が8割作ってくれていました。夫が忙しい時は私がやるし、私が忙しい時には夫が助けてくれます。
稲:どんな風に決めているんですか?
中:その都度話し合います。「今日は私がやるね」とか「今日はちょっと調整させて」といった感じです。定期的にお互い手帳を出し合って、スケジュールの確認をしたりもしています。助け合いですね。
稲:お子さんたちはどんな風に受け止めていますか?
中:子どもたちはしっかりと理解してくれていて、助けてもらえる部分も多くなりました。「お母さん、今日は何の仕事してくるの?」と聞かれることもありますね。
稲:いろいろな仕事をしているお母さんならではの質問ですね(笑)
中:そうなんです。それぞれの活動への理解は、子どもたちなりにしてくれていますね。仕事の話も聞いてくれるし、イベントにも参加してくれたりします。
稲:そこに至るまでの苦労などはありましたか?
中:自分の心が整って、子どもたちに優しく接することができるようになるまではいろいろ大変なこともありましたね。それが落ち着いた時に、改めて子どもたちの未来を考えるようになったんです。
「意識が高いですね」と言われることもありますが、そういうわけじゃないんです。もっと身近なところの心配事から活動を始めたわけですしね。
この先のビジョン
稲:起業という夢を果たした今、これからの目標はありますか?
中:会社に関してはまだまだ始まったばかりで、もっとお仕事を受けられるように、レベルアップしていきたいです。しっかりと数字とも向き合っていきたいですね。
じもじょきとしては、起業を目指す方へのサポートはできてきたので、これからは起業後の方への支援を更に充実させることも並行して行っていきたいです。自分たちのレベルアップは課題の一つですね。
稲:起業の先輩としてアドバイスできることが増えましたね。
中:自分の会社を軌道に乗せることで説得力も増すと思っています。
起業を目指す方へのメッセージ
中:以前と比べていろいろな働き方ができる時代になってきたので、固定観念にとらわれずに、自分の心地よい道を選んでほしいですね。その中で本当にやりたいことと真剣に向き合えば、きっと方法はたくさんあります。同じ時代に一緒に仕事ができるのは奇跡だと思うので、どこかで一緒に仕事ができたら嬉しいですね。私も頑張ります!
まとめ
じもじょき.netちとせが行っている「コワーキングタイム」には、毎月夢をもった女性が参加しています。楽しくおしゃべりする中でも、何かを得ようと目を輝かせているのが印象的。常に挑戦を続ける中塚さんの向上心は、自らのモチベーションでもあり、仲間や起業を目指す女性にも伝わっています。
中塚さんの武器である「グラフィックレコーディング」は、更に企業にとって欠かせないものになっていくでしょう。
取材協力
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合同会社かくはなす
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