あなたは、グルメメディアやフードインフルエンサーの世界にどんなイメージを持っていますか?
映えるスイーツや話題のお店が次々と拡散され、情報の“スピード”が価値になる――そんな時代です。だからこそ、北海道でお店を探すときに「結局どこが自分に合うのだろう」と迷うこともあるのではないでしょうか。
そんな中、北海道・札幌で流行より“体験の確かさ”を大切にし、地元目線で本当においしい店を丁寧に発信し続けている夫婦がいます。
Webメディア『MOGTRIP』を運営する、高井なおさんとtomo.さんご夫妻に、起業のきっかけから夫婦経営の実情、これからの展望まで詳しくお話を伺いました。
10年以上趣味として続けてきたブログが、コロナ禍をきっかけに一気に収益化。夫婦それぞれの得意分野を活かした役割分担で、月間最大50万PVのメディアを構築しました。
分析が得意な夫と、直感あふれる妻。正反対の強みを持つ2人が、どのように事業を育ててきたのでしょうか。
AIの台頭やプラットフォームの変化で大きく様変わりするWebメディア業界で、彼らが見すえる未来とは。そして、「好きなことを仕事にしたい」と考える人へのリアルなアドバイスも伺いました!

(取材日:2025年10月・インタビュー:濱内勇一、原くみこ・文:原くみこ)
「北海道」と「食」をこよなく愛する、札幌生まれ札幌育ちのグルメライター。2000年より北海道内4,500店以上を食べ歩き、179市町村全制覇。食を通じて北海道を元気にするのが野望。25年以上にわたり北海道全域の飲食店を食べ歩き、独自の「店選びの目」を培う。北海道の質の高いグルメ情報を発信。現在はInstagramフォロワー1万9千人超のアカウントを運営し、大人の女性を中心に支持を集める。
株式会社Foodies 代表取締役 tomo.(とも)
『MOGTRIP(モグトリップ)』などのWebメディアを運営。20代から北海道の全市町村をドライブで巡るほどの道内通。2010年頃から個人ブログを開始し、2018年に『MOGTRIP北海道』を立ち上げ。2020年に、グルメブロガー兼メディア運営者として会社員から独立。現在は運営するWebサイトの、分析・SEO対策・記事制作を担当。
原点は、趣味の「ドライブ」と「食べ歩き」

北海道の観光・グルメ情報を網羅的に発信する『MOGTRIP北海道』。その原点は、実はお二人が出会う前、それぞれの個人的な「趣味」にありました。
原:もともとはお二人とも、まったく別のブログを運営されていたそうですね。
tomo.:そうなんです。私は20代の頃からドライブが趣味で、北海道中の観光地を回るのが好きでした。当時の仕事のストレス発散も兼ねて、週末のたびに車を走らせ、その記録として2010年頃からブログを書いていました。
高井なお(以下、なお):私はその頃、札幌で会社員として働きながら、プライベートでカフェやレストランの食べ歩きにハマっていました。最初は本当に、食べることが好きなだけでしたが、食べたものを記録しておきたいという気持ちがだんだん強くなっていったんです。
ある日、すごく好きだった飲食店が突然閉店してしまう、というのが何度か続いたことがありました。それがとても悲しくて、「自分が美味しいと思ったお店の情報を発信したら、閉店する飲食店を少しでも減らせるかもしれない」という思いで、2016年にブログを開設しました。
原:おいしいお店を紹介したい、というだけでなく、ご自身の好きな味を残したいという視点があったんですね。そこからお二人が一緒にメディアを運営することになったきっかけは?
tomo.:最初は別々のサイトを持っていて、私はドライブネタに加えてグルメ記事も書き始めていました。妻のグルメブログの方はWebライターの案件やテレビ出演の話が来るようになって、需要が高まっているのを感じました。「それなら食を軸に統合して一本化したほうがいいよね」となり、2018年に今の『MOGTRIP』の形になりました。
夫は勢いで退職、妻は“空から降ってきて”退職?!対照的な独立ストーリー

趣味の延長で始まったブログ運営ですが、現在はそれ一本で生計を立てられています。お二人が会社を辞めて独立するまでの経緯は、実に対照的でした。
原:先になおさんが会社を辞められたんですよね?
なお:はい、ある日突然「こんな人生でいいのかな」「好きなことを仕事にしたい」という思いが空から降りてきて(笑)。
原:降りてきたんですか(笑)。
なお:そうなんです。何のきっかけもなく急に湧き上がってきて、「辞めたい!」と思って3ヶ月後には退職していました。
原:そしてなおさんが独立してから数年後にtomo.さんも会社員から独立ということで、tomo.さんが「これを本業にしよう」と決断されたタイミングはいつ頃だったのでしょうか。
tomo.:きっかけは、とあるブロガーさんのオフ会で「ブログでご飯を食べている人」に出会ったことですね。「あの人にできるなら私にもできるんじゃないか」と 刺激を受けて、その翌年には会社を辞めました。ただ、当時はブログで月5万円くらいしか稼げていなかったんですけど(笑)。
原:月商5万円で独立! なおさんは反対されなかったんですか?
なお:全然(笑)。会社員時代の彼が激務でストレスを抱えているのを見ていたので、「辞めたかったら辞めれば? どうにかなるでしょ」という感じでした。私自身も働いていましたし子供もいないので、気楽に考えていましたね。
tomo.:流れが変わったのは、コロナ禍が終わりかけの観光需要の高まり・GoToトラベル・GoToイートなど、国の経済活性の施策が始まったタイミングでした。飲食店やホテルのアフィリエイト(成果報酬型広告)を組み合わせた解説記事が当たって、収益がぐんと伸びました。
原:そこから事業として成立するようになっていったんですね。
tomo.:といっても、1件の予約で入る報酬は数百円とか千円くらい。大きく見える数字も、ひとつひとつは小さな積み重ねなんです。
ただ、その頃には“アクセスが集まる記事のパターン”や“読者の検索行動”がだいぶ見えるようになってきて。サイト全体のアクセスも、一時期は月間50万PVまで伸びました。
いろんな人のウェブサイトを分析するのが、もともと好きなので、伸びているサイトをひたすら研究して、“なぜこの記事は読まれているのか”“どんな導線になっているのか”を徹底的に観察しました。
分析型と感性型。夫婦だからこそたどり着いた最適な役割分担
原:分析家のtomo.さんと、直感型のなおさん。真逆のタイプなんですね!現在の役割分担はどのようにされているんですか?
tomo.:最初は2人とも記事を書いていたんですが、ここ1年ちょっとで完全に役割が分かれましたね。私は得意な分析力を活かして、Webサイトの運営やSEO(検索エンジン最適化)、経営面を担当しています。
なお:私は、SNS担当です。Instagramの企画、撮影、動画編集、投稿まで全部一人でやっています。もともとサイトの記事もすべて書いていたんですが、今は私が取材した素材を夫が記事にして、私が最後に監修するという流れですね。
tomo.:Instagramのようなコミュニケーションが重要なプラットフォームは、感覚的な妻のほうが向いている。逆にWebサイトは検索エンジンのアルゴリズムを分析してコンテンツを作成する必要があるので、私が担当しています。
好きなこと・得意なことが違うので、お互い“自分の好きな部分”を担いつつ、足りないところを補い合っている感覚です。
一日中いっしょに働く夫婦だからできること

原:夫婦で同じ事業をする──。うらやましく聞こえる一方で、「ずっと一緒にいて大変じゃない?」という声もあるかもしれません。実際どうですか?
tomo.:もう日常の一部ですね。事業としてやっているというより、仕事が完全に「生活の一部」になっています。朝起きてから寝る直前までお互いに何かしら作業をしているので、仕事とプライベートを切り分けるという感覚があまりありません。
なお:私もストレスはほぼないですね。夫婦で仕事をしていて感じる一番のメリットは、“情報共有が圧倒的にしやすい”ことです。家も仕事場も一緒なので、わざわざ会議をしなくても、日常の会話の中で自然とすり合わせができる。
取材も二人で行くことが多いので、“どのシーンを切り取るか”“どう伝えるか”を、その場で同じ空気を感じながら決められます。
原:現場で感じた“おいしさ”や“お店の空気”を、同じ前提で共有できるのは、大きいですね。夫婦での起業・共同経営には、距離の近さゆえの難しさもあると思いますが、お二人の話から「価値観が合う」「お互いへのリスペクト」がそのバランスを支えていることが伝わってきました。
「質」にこだわり、バズより信頼を選ぶ理由
原:ここ数年、TikTokやショート動画のグルメインフルエンサーも増えていますよね。その中で、“自分たちのポジション”をどう捉えていますか。
なお:大切にしているのは「質」です。「この価格で、このクオリティなら自信を持っておすすめできるか」を一番大事にしています。
原:トレンド店や「映え」重視の発信も多い中で、葛藤はありませんか?
なお:私のフォロワーさんは85%以上が35歳以上の方なんです。ある程度いろいろなものを食べてきて、舌が肥えている方が多い。だからこそ、トレンドや見た目の可愛さよりも「質」や「本当に美味しいかどうか」を重視して発信しています。
tomo.:若い子向けの「バズるお店」ばかり紹介しても、私たちのフォロワーさんにはあまり響きません。「安くて大盛り」とか「流行りのスイーツ」よりも、落ち着いて食事ができる「穴場」のほうが好まれます。
原:お店選びの目利き力も問われますね。
なお:はい、ただ食べ歩き歴25年になるので、ネットの情報や店構えを見れば、大体8〜9割は当たりかハズレかわかるようになりました。
原:すごい確率! それでもハズレることはありますか?
なお:たまにあります(笑)。例えば、以前、口コミサイトで高評価の激安店に行ったんですが、私の口には合わなくて…。「安さ」だけで評価されているお店もあるんだなと痛感しました。だからこそ、口コミサイトの点数は鵜呑みにせず、自分の舌で確かめたものだけを紹介するようにしています。
tomo.:失敗エピソードとしては、以前、アクセス数欲しさに、観光客向けの「わかりやすい人気店」ばかり記事にしていた時期があったんです。そうしたら、地元の読者さんが離れてしまって。
原:数字を追いかけて、本来のファンを見失ってしまったと。
tomo.:ええ。私たちは「地元目線」でスタートしたはずなのに。その失敗があってからは、アクセス数よりも「自分たちのフォロワーさんが喜んでくれるか」を基準に話題選びをするようになりました。
AIと動画の時代。Webメディアの生存戦略

原:AIやSNSでのショート動画ブームなど、Webメディアを取り巻く環境は、ここ数年で劇的に変化しました。この状況をどう見ていますか?
tomo.:AIが台頭して、BtoCのWebメディアは今後どんどん減っていくだろうと考えています。そもそもWeb検索をしない人が増えています。若い人に聞くと、まずTikTokで調べて、次にインスタ、それでも足りなければWebという人が多い。
実際、全国規模のグルメメディアでも撤退する事例が増えています。
だからこそ、今は「指名検索を増やす」ことを意識しています。「MOGTRIPのなおさんが紹介している店なら間違いない」と思ってもらえるような、個人のブランド力が不可欠になると考えています。
原:具体的に取り組んでいることはありますか?
なお:最近、Instagramのリール動画で着物を着て出るようになったんですが、街中で「見てます!」と声をかけられることがすごく増えまして、フォロワーさんの広がりを感じます。
原:なおさんがメディアの「顔」になっているんですね。
なお:そうやって「人」にファンがついてくれれば、プラットフォームが変わっても見てくれるはず。今後は飲食店だけでなく、北海道の生産者さんやメーカーさんと組んで、商品プロデュースなどもやってみたいです。
tomo.:今はまだ広告収益がメインですが、将来的には企業とのタイアップやBtoBの仕事も増やして、収益の柱を分散させていきたいと考えています。
今年は利益はそこまで求めず、来年以降に向けての下地を作る年と割り切っています。なおのInstagramフォロワーを4,000人から1万5,000人超まで伸ばし、それに合わせてWebサイトも全面リニューアルしました。
起業を目指す方へのメッセージ

原:最後に、これから好きなことを仕事にしたい、起業したいと考えている方へメッセージをお願いします。
tomo.:今は誰でも発信者になれる時代です。ブログでもSNSでも、自分の好きなことを発信し続ければ、誰でもその分野の「専門家」になれる。お金もかからないし、リスクも少ない。だから、やりたいことがあるならどんどんやればいいと思います。
ただし、グルメ領域は参入障壁が低くてライバルも多いので、本当に儲けようと思ってグルメを選ぶのは正直おすすめしません。よっぽど好きでどうしようもない人向けのジャンルです(笑)。
なお:私は、会社員からフリーランスになって「自由」を手に入れましたが、同時に「自分を律すること」の大変さも学びました。 これから始める方に伝えたいのは、「初心を忘れないでほしい」ということです。
原:初心、ですか。
なお:はい。バズらせようとしてトレンドばかり追ったり、数字に振り回されたりせず、「自分の『好き』を伝えたい」という最初の気持ちを大切にしてほしい。見てくれている人に対して誠実であり続けることが、結果的に一番の強みになると思います。
tomo.:「好き」を貫くには、知名度も必要だと最近感じています。知らない人が「これが好きだ」と言っても押しつけになってしまうことがある。でも「あの人が言うなら信じてみよう」と思ってもらえれば、受け取ってくれる人の数が増えます。だからこそ、自分の名前やブランドを知ってもらう努力も、「好き」を貫くための大事な要素だと思います。
なお:“好き”と“現実”のバランスをとりながら、自分たちなりのペースで続けていける形を見つけていってほしいです。
編集後記
「好き」を仕事にするキラキラした側面と「誠実さ」、アルゴリズムの変化と戦うシビアな経営者としての側面。その両方を持つお二人のバランス感覚が、『MOGTRIP』の信頼性を支えているのだと感じました。
あなたなら、どんな「好き」を、どんな形で育てていきたいでしょうか。
高井なおさん・tomo.さん夫妻のストーリーを、自分ごととして重ねてみることで、次の一歩を考えるきっかけになるかもしれません。

取材協力
MOGTRIP編集長 兼 グルメライター 高井なおさん
株式会社Foodies 代表取締役 tomo.さん
https://mogtrip.jp/
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tiktok: https://www.tiktok.com/@hokkaido.gourmet