コロナ禍の売上ゼロから復活!逆風を追い風に急拡大を果たした北海道発・外国人人材スタートアップ 株式会社チョモランマ横山三四郎さん

コロナ禍で売上ゼロからの大逆転。
逆風を追い風に変え、外国人人材事業を急拡大させている起業家が北海道にいます。

本記事では、学生時代に世界一周を経験し、「日本をもっと良くしたい」という想いを胸に起業した株式会社チョモランマの代表・横山さんにスポットを当てます。世界を旅したバックパッカー時代に芽生えた起業のきっかけは何だったのか。そして、コロナ禍という未曾有の試練をどう乗り越えて事業を飛躍させたのか。

ベンチャー企業で得た学びを糧に、ゼロから価値を作りあげる“開拓精神”を育んできた横山さんのストーリーには、経営者や起業家が明日から実践できるヒントが詰まっています。さまざまな課題に挑み続けるその姿勢から、新たなチャンスをつかむきっかけをぜひ見つけてください。

(取材日:2024年2月・インタビュー/文:原 くみこ)

ロカロウ
起業の種や人生のビジョンの見つけ方など、経営者にとって学びがいっぱいのインタビュー!
株式会社チョモランマ 代表取締役 横山三四郎(よこやまさんしろう)
1990年岐阜県生まれ。大学在学中に2年間休学し、東南アジアからアフリカまで世界一周を経験したことをきっかけに、日本の魅力を再認識。卒業後、大阪のベンチャー企業に入社し、タイ支社の立ち上げや新規開拓に携わる。その後、2018年に北海道札幌市で株式会社チョモランマを設立。外国人人材の紹介・支援事業を通じ、日本企業の人材不足の解消とグローバル化に取り組む。2021年には子会社NINAITEを設立し、農業分野の特定技能外国人派遣事業も展開中。

見えない未来を切り拓く“順張り”の発想

原(インタビュアー):まずは簡単に、現在の事業内容を教えていただけますか?

横山:わたしたちは北海道を拠点としながら、主に外国人人材の紹介・支援をメイン事業にしています農業や介護、観光宿泊など“人手不足”で苦労している企業さんと、海外から『日本で働きたい』と思っている方々をつなぎ、入国後のサポートまで一貫して提供しています。

学生時代:世界一周で芽生えた“日本に貢献したい”という想い

原:起業や事業の原点となったエピソードをぜひ聞かせてください。横山さんは学生時代に2年間休学して、世界各国をバックパッカーとして旅していたそうですね。

横山:はい。大学を5年ほど休学して、一人で45カ国以上まわりました。最初は“とにかく世界を見てみたい”という好奇心だけ。お金もそんなに持っていませんでしたが、当時は円高だったのもあって何とかやりくりできたんです。中東からアフリカまで放浪しているうちに、いろんな国の人から『日本は本当にすごい国だ』と賞賛を受ける機会が多くて。最初は素直に『うれしいな』と思っていたんですが、ふと「俺自身は何もしていないのに….昔の日本人が築いた看板の上に立ってるだけじゃないか?」と気づいてしまったんですよ。

原:確かに。海外だと『日本人』と名乗るだけで好印象を持たれること、ありますよね。

横山:そうなんです。でも、「自分が何か努力して得た評価じゃないよな」と思ったら、『日本という国にいつか恩返しをしたい』『日本をもっと良くしたい』という想いが芽生えました。帰国後にそれをどう形にしようか考えた末、ビジネスで貢献する道を選んだんです。

ベンチャー企業への新卒入社:インバウンドで見た“国策順張り”の爆発力

原:そこでいきなり起業…ではなく、まずは新卒で就職したんですよね?

横山:はい。卒業後は大阪の、インバウンドに特化した急成長ベンチャーへ入社しました。ちょうど政府が“観光立国”を掲げ始めた時期で、訪日外国人3,000万人という目標があちこちで叫ばれていたんですよ。ビザ緩和などの国の後押しもあり、会社は20人から600人に急成長。僕もその渦中で“国策に順張りするとビジネスはここまで伸びるのか”と衝撃を受けました。

原:いわゆる『追い風』がビジネスの拡大を強力にサポートしてくれたんですね。

横山:そうですね。時流にのって海外からの集客を大きく伸ばし、日本の地方観光に貢献する瞬間を目の当たりにしました。代表の「日本を観光で元気にするんだ!」という言葉にも共感して、毎日が刺激的でしたね。でも会社が安定フェーズに入るにつれ、僕は「0~1を立ち上げる仕事にもっとのめり込みたい」と思うようになって。ちょうどいいタイミングで退職を決断し、経験を活かしてまずはインバウンド事業で独立しました。

北海道移住&10個の新規事業:やりたいこと × やるべきこと

原:そして選んだ舞台が、北海道なんですね。

横山:そうなんです。インバウンド事業は堅調に売り上げていたけれど、これだけに依存しては『日本へ貢献する』というところがまだ足りない気がして、“アウトドア×インバウンド”の可能性を掛け合わせようと考えました。その可能性を最大化できる場所を探して、2018年頃に北海道に移住しました。

北海道って、四季がしっかりしていて大自然もあって、都市機能やグルメなど魅力が満載ですよね。初めは、かまくら作りや体験イベント、キャンプ場とのコラボ…などなど。とにかく10個ぐらい新規事業を片っ端から立ち上げてみたんですけど、いずれも、ちょっとニッチすぎる・収益が拡大しにくい、などの壁がありました。

原:10個も! 『まずやってみる』の行動力がすごいですね。でも、永続的に企業を続けるという視点では難しかったと。

横山:ええ。“小さく稼ぐ”ぐらいなら可能でも、大きく伸ばすには何かが欠けている『事業を通じて日本をもっと良くする』ためには、社会にインパクトを与えられるような、ある程度の事業規模が必要です。爆発的に成長する可能性を見いだせる事業アイデアを模索していたときに、農家さんや介護施設で「人手不足が深刻なので外国人に来てほしいんだけど…」という声を耳にするようになったんです。

コロナ禍で売上ゼロ:それでも“長期的な仕込み”に集中

原:なるほど。そこで外国人人材のビジネスに手応えを感じ、国の新しい在留資格“特定技能”にも目をつけたと?

横山:そうですね。前職で『国策に順張りする』のが大事だと学んでいたので、“特定技能を使って80万人を受け入れる国策が打ち出された”と聞いた瞬間、「これだ」と。2019年から水面下で受け入れ先を探して手を打っていました。ところが2020年、コロナで国境が閉じた。外国人観光客も労働者も入ってこない。あっという間にインバウンドの売上はゼロになり、仕込み中の人材事業もストップですよ。

原:それは精神的にも厳しいですよね。

横山:はい…。一時期は社員が6人から2人に減りました。でも「短期的にお金を稼ぐためだけの仕事はしたくない」と思い、ひたすらコロナ明けを信じて、オンライン面接や日本語教育の体制づくりなどの仕込みを粛々と進めたんです。水際対策がいつ解除されるかわからないけれど、「いずれは開く」と、その時を見据えて準備していました。

原:入国制限が続く中で、それでも諦めずに仕組みづくりをしていたわけですね。

横山:そうです。その結果、2023年以降に一気に解禁モードになったタイミングで、待ってましたとばかりに労働者の受け入れが殺到して、我々はすぐに人材を送り出せた『次の波に備えて投資しておく』――これが大きな飛躍につながったと思います。

組織づくりと“時計をつくる”発想

原:事業が軌道に乗り始めた今、横山さんは“組織づくり”にも相当力を入れているそうですね。

横山:そうなんです。社員が10人程度なら、僕自身が“全部見て”動かしていても回るんですが、30人・50人と増えてくるとさすがに限界があります。

そこで『ビジョナリーカンパニー』で言われている“時を告げるのではなく、時計をつくる”という発想を意識しているんですよ。要は仕組み化ですね。たとえば僕が不在でも組織が自走できる仕組みを早めに作らないと、大きく成長するのは難しいですし、万が一僕が倒れたらすべて止まってしまう。そうならないための組織設計を考えています。

なぜ新卒採用にこだわる?強い組織を育てる仕組み

原:仕組み化を進めるうえで、新卒採用に特に力を入れているとか。人手不足のベンチャーであれば、中途の即戦力に頼りたくなるのが普通だと思うのですが、あえて逆をいく理由は何でしょう?

横山:一言でいうと、“会社とともに成長する”意識を共有しやすいからです。もちろん即戦力の中途社員もありがたいんですが、“ゼロイチを作る”ようなスピード感ある環境では、何よりも変化に対応する柔軟さ開拓精神が欠かせません。固定観念が少ない新卒メンバーのほうが、“これから一緒に組織をつくっていく仲間”として育てやすいんです。さらに採用過程でビジョンに共感して入社してもらうことで、長期的なロイヤリティを高めやすいメリットもありますね。

原:なるほど。それでも教育コストはかかりますよね。具体的にどうやって育てているのでしょうか?

横山:まず、採用段階から会社のビジョンや組織づくりの方針を丁寧に伝えています。単に『うちはこれをやっています』ではなく、『ここで数年働いた先に、あなたがどんな役割を担ってほしいのか』まで具体的に示すんですよ。インターンや面談を通じて、それをじっくりすり合わせます。

入社後は、たとえば月1回の全体研修幹部候補向けの研修を設けて、ビジョンや事業戦略を共有し続けますそこで重視しているのが、“会社のための人生”ではなく“自分の人生のために会社を使う”という考え方若手がまず自分の将来像を言語化し、それを実現する場として会社をどう活用するかを一緒に考える。そうすると全員が“納得感”を持って動けるようになり、意思決定の迷いも減るんです。

若手が主役になれるステージを作る

原:自分のキャリアを主体的に作れる環境があると、モチベーションも高まりますよね。若手がすぐに活躍するケースはあるのでしょうか?

横山:はい。1~2年目から管理職層にチャレンジできる道を用意しています。いきなり大きな責任を与えるのはリスクもありますが、若手が『自分の可能性を試せるステージ』を与えられると、エネルギーが一気に高まる。その結果、組織もダイナミックに動きやすいんです。

さらに、ここで成長したメンバーが企業の中核を担ってくれれば、会社のカルチャーがブレにくいという利点もあります。短期的には教育コストや採用費がかさみますが、長期的には確実にプラスになる投資だと考えています。『ここに投資しないと将来はない』くらいの気持ちで力をいれてやっていますね。

“源流”を掴むビジネス展開:SaaS開発と海外教育機関への投資

原:外国人人材の領域は今後ますます需要が伸びそうですが、その先のビジョンはどうお考えですか?

横山:一つは自社SaaSの開発です。すでにいろんなプラットフォームはあるんですが、ブルーカラー層の外国人労働者向けってあまり整っていないんですよ。僕らは企業と労働者のマッチングから就業後のサポートまでやるので、その流れ全体を効率化するようなシステムを自社で作ってしまおうと考えています。あとはインドネシアやミャンマーなどで“現地の日本語学校”を自分たちで持ち、育成から送り出しまで垂直統合できればさらに強い。結局“源流”を押さえることで、より大きな価値を提供できますから。

原:まさにインフラづくりですね。地方の農家や介護施設など“人手不足が深刻”なところほど歓迎されそうです。

横山:そう思います。国内では福岡や広島、仙台などにも支店を広げていて、地方企業へのサポートを一気通貫で強化したいですね。北海道で培った人材受け入れノウハウを全国に展開していくイメージです。

経営者としてビジョンを定め、意思決定の軸にする大切さ

原:ベンチャー企業でスピード感重視となると、目先の利益や流行に流されることも多いと思いますが、ここまでお話を伺って、横山さんはビジョンに基づいて長期的な視点での経営を大切にされている印象です。『自分のビジョンを明確にする重要性』について教えてください。

横山:確かに売上や成長スピードは大切ですが、ビジョンがなければ、迷ったときに判断の拠り所がなくなるんですよね。「これ、うちが本当にやるべきなのか?」という問いかけができないと、どんどんブレてしまう。

僕自身は、学生時代の世界放浪を通じて『日本に貢献したい』という想いを持ちつつ、ベンチャー時代に『事業で社会の課題を解決する』ことの面白さを知りました。そこから“日本の人口減少や人材不足を解決しつつ、組織を通じて人の幸せを広げたい”というビジョンを軸に、事業や採用の方向性を決めています。

原:ビジョンがあると、具体的にはどんなメリットがあるんでしょう?

横山:ひとつは『最終的に自分が後悔しない』ための基準になることですね。コロナ禍で売上ゼロになったときでも、「今、目先の稼ぎに走るのは本当にビジョンに合っているのか?」と問い直せたので、あえて外国人人材受け入れの準備を粛々と進めました。結果的にコロナ後のリバウンド需要をしっかり捉えられたんです。

あと社員にとっても、判断の一貫性があるリーダーは信頼しやすい。ブレると「社長、昨日と言ってること違うじゃないですか」となってしまいますよね。自分が一貫していれば、社員も納得しやすいし、事業の方向づけもしやすいわけです。

原:ビジョンって、やっぱり最初からクリアに見えていたんですか?

横山:最初はぼんやりしてました。自分の心からワクワクすることは何か、社会が必要としていることは何かをたくさん考え、いろいろ試行錯誤しました。現場を駆け回って人手不足の声を聞いたり、コロナ禍でいろんな選択肢を検討したりする中で、だんだん「自分はこうしたいんだ」と腹落ちした感じです。

だから、行動しながらブラッシュアップするのが大事ですね。ビジョンは静かに机上で考えているだけじゃ固まらないと思います。

読者へのメッセージ:やりたいこと × やるべきこと × 社会的ニーズ

原:これから起業を考える方や、新規事業に挑戦する方にとって、横山さんの経験はすごく参考になると思います。そこで最後に、ビジョンを探っている人や、事業の方向性に迷っている人へのアドバイスをいただけますか?

横山:そうですね。まず僕自身の話をすると、“アウトドアで日本の魅力を届けたい”という想いだけで走った最初の事業は、正直そこまでうまくいかなかったんです。そこで少し視野を広げて“人材不足”という社会課題に目を向け、ちょうど国策として打ち出された“特定技能”の仕組みに順張りしてみたら、一気に活路が開けました。

言いたいのは、“やりたいこと”だけにこだわって行き詰まってしまうなら、一旦“やるべきこと”や社会的ニーズを考えてみるのも手だということです。そこで成果を出せば、最終的には自分のやりたい領域に再投資したり、掛け合わせたりできるんですよ。

ただし“やるべきことだけ”でも不十分なんです。やはり“自分が心底ワクワクする要素”がないと、長続きしないし力も発揮しにくい。“心底ワクワクするもの”と“社会的需要”の交点こそが、自分のビジョンになると思います。そこを明確にすれば、経営判断の迷いがぐっと減るし、周囲の応援も得やすいんじゃないでしょうか。

あとは、やはり情報量が大切ですね。国や自治体の政策や、人口動態、技術トレンドなどを常にチェックしていれば、今どこに伸びる市場があるのかをイメージしやすい。いくらいいアイデアがあっても、データや根拠がなければ動きづらいですし、逆にしっかり調べて確信が持てれば一気に振り切ることができる。今は世の中の変化が本当に速いですから、そうした情報を意識して拾っていくと『確度の高いチャンス』に気づきやすくなると思います。

特に激動の時代だからこそ、経営者自身が『何を大切にしているか』を言葉にして、重要な意思決定の場面でしっかり示すのは大事ですよね。そうすれば組織も迷わず前に進みやすい。今、新しい挑戦を考えている方は、焦らず腰を据えて情報を仕入れ、自分のワクワクポイントと社会の課題が交わる場所を探すという姿勢を持ってほしいですね。そうすると自然と“やりたいこと”が形になり、周りのサポートも得られやすいはずです。

原:なるほど。『ワクワク』と『やるべきこと』、そして『社会ニーズ』を掛け合わせるイメージですね。コロナ禍でゼロになった売上から成功されたストーリーも含めて、多くの学びをいただきました。これを読んでいる起業志望の方や新規事業を模索している方に向けて、最後のエールをお願いします。

横山:はい。世の中にはまだまだ “青い海” があります。自分の強みを生かせる場所にきっと出会えるはず。ですから、ぜひ自分のワクワクと社会的ニーズを大事にしながら、躊躇せず飛び込んでみてください。やってみたら意外と、想像以上に道が拓けるなんてこともあると思いますよ。

まとめ:柔軟さと“軸”が大事、スタートアップ成功の秘訣

インバウンドから人材紹介、そして組織づくりへ――横山さんが示す戦略は、一見柔軟に見えながらも「源流を押さえる」「正しい選択を行い、努力と仕組みで後押しする」という軸がブレることなく貫かれているのが印象的でした。

起業家としては、「やりたいことだけ」でも「できることだけ」でも足りない。それらを行き来しながら軸を定め、“面白い未来”を創造するプロセスこそが、スタートアップ成功の秘訣のひとつなのかもしれません。

自分が心からワクワクし、かつ社会が必要とする領域を探り続けることで、コロナ禍のような逆境さえも成長の糧に変えられる。情報という確かな根拠を得たら、自分のビジョンを信じて思い切り投資し、行動する。それを継続することこそが、大きな成果を生み出す鍵ではないでしょうか。

 

取材協力

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