地域密着型コワーキングスペースの開業と運営秘話。札幌市西岡「COCOスペース」代表 今野純子さん

札幌の女性起業家に大人気の、豊平区西岡の住宅街にあるコワーキング「COCOスペース」。

その創業者、今野さんが不動産業からの転身を経て、起業家として新たな挑戦を初めた背景には何があったのでしょうか。

「たまたま、が重なっただけ」と笑顔で語る今野さんの朗らかな人柄と情熱が多くの人々を引き寄せ、地域の活性化につながるコミュニティへと発展しています。

この記事では、起業のきっかけ、苦労話、そして地域とともに歩む「COCOスペース」の魅力に迫ります。

コワーキングスペースや地域コミュニティの運営に興味のある方、必見です!

(取材日:2023年11月・インタビュー:濱内勇一/原くみこ・文:原くみこ)

ロカロウ
ちょっとめずらしい郊外型のコワーキングスペース、その成功の秘密にせまるホー!
COCOスペース 代表 今野純子(こんの じゅんこ)
不動産業に10年以上従事し、営業職や人材育成の面白さに目覚める。2016年、北海道で活躍する女性を応援する「つながるコワーキング札幌」の運営リーダーとして携わり、やりたい事を表現できる場作りに取り組む。2020年、個人と個人がつながる、コミュニケーションできるコワーキングスペース、「COCOスペース」を豊平区西岡にOPEN。COCOから始まる新しいつながりを目指す。
宅地建物取引主任士、国家資格キャリアコンサルタント 釧路出身。

起業のきっかけ

原:起業したきっかけやCOCOスペースを立ち上げた経緯を教えてください。

今野:元々は、不動産業で18年ずっと賃貸業で会社員として働いてたんですよね。お給料も良くて、週休2日で、営業も好きで、やりがいもあって、何不自由なかったんです。

原:その時から、いつかは起業したいと思っていたのでしょうか。

今野:いえ、実は別にそういう訳ではなかったんですが、なんとなく札幌のエルプラザのリラコワという女性起業家が集まる場所に出入りするようになっていたので、今思うとそうだったのかもしれません(笑)

原:そこでの経験が起業のきっかけになったとか。

今野:はい、ある時、リラコワが半年間閉鎖になる、困った!という利用者さんの声を聞いて、わたしにもなにかできることはないかと考えたのが、一番最初のきっかけですね。その時は4人の有志が集まり、2016年の1月に札幌駅近郊で週1回だけのコワーキングスペース「つながるコワーキング札幌」をオープンすることになりました。

原:会社員として働きながらの活動ですよね?週1回でもすごいですね。

今野:それくらいならできるかなと思って始めました。その頃からコワーキングスペースの運営や、コミュニティについて調べるようになり、意識も変わりました。

原:週1回のコワーキングスペース、具体的にはどのように運営していたか教えてください。

今野:北海道で活躍する女性を応援する場所として、イベントスペースのような感じで、テーブル1台いくらという形で貸していました。次第に多くの人が集まるようになり、最後の5、6か月には入場制限が必要なほどの人気の場所になったのですが、その後、リラコワが復活したので札幌駅付近での需要は一旦落ち着いたのかなと思い、そこでの活動を終了しました。

開業までの準備と苦労したこと

原:それはちょうど良いテストマーケティングになりましたね。それからCOCOスペースの開業までは、会社員をしながら起業準備ですね。

今野:そうですね、ただその時点でも「絶対に起業したい!」と思っていた訳ではなく、良い場所が見つかれば、というくらいの感じだったので、開業までには4年くらいかかりました。

原:その間に、物件探し以外で準備していたことはありますか

今野:お金は貯めていましたね。いつか本当にやりたいとなったら、ある程度の起業資金がかかるだろうと思っていたので。そのうち、2020年のコロナ禍の最中に運良く今の場所を見つけたんです。物件が見つかってからはトントン拍子に進めました。

原:すぐに家賃が発生しちゃいますしね。コワーキングスペースのように店舗が必要な事業だと、開業資金としてまとまったお金が必要になりますよね。内装もとても素敵なのでその辺も結構かかったのかなと…資金調達は自己資金のみですか?

今野:ここは元々ただの事務所だったので、壁を取り壊したりキッチンを改装したりと、結構大きくリノベーションしていまして、開業時は、助成金や補助金も積極的に利用しましたよ。

原:申請書などはすべてご自分で?

今野:そうです。見よう見まねで事業計画書を作成し、地域の課題解決を目指すプロジェクトとして応募したところ、幸運にも採択されました!

濱内:事業計画書の作成もその時が初めてですか?

今野:はい、初めての経験でした。それで面白かったのが、事業計画や申請内容を何人かの専門家に見せてアドバイスをもらったところ、皆さん言うことがまったくバラバラだったんです。もう何を信じたらよいかわからなかったので、最後は自分を信じて何とか提出し、結果的に採択されて助成金を受け取ることができました。いま見返したら出せないレベルだと思うのですが、その時は勢いでね。

原:起業初期には何もわからないからこそ、勢いで動ける、というのはありますよね。

濱内:その他に、開業前後に苦労したことや大変だったことはありますか。

今野:開業当初に取り組んだブランディングやコンセプト作りに苦労しました。初めは外部のプロの手を借りて、デザインを整えて進めていきたいという理想を持っていたのですが、トラブルがおきて途中で頓挫してしまいました。結局、たまたま腕の良い内装職人さんにお願いできたので、現場の皆さんで協力して乗り切りました。

原:反省をふまえて、気をつけたほうが良いアドバイスなどあれば。

今野:デザインを依頼する際に、当時はまだ自分が形にして欲しいイメージなどをうまく人に説明できなかったのが良くなかったと思います。事業を始める前だったので自分でもぼんやりしていました。あとは、自分に合う外部のパートナーさんを見極めることができなかったのが、問題だったかなと思います。いくら専門スキルが高くても、相性などもあり、それだけじゃダメなんだなと。失敗ではありますが、良い勉強・良い経験になりました。

原:プロにお願いすれば何でも望み通りにやってもらえるわけではないので、外部のパートナー選びも大事ですね。

女性起業家に愛される居心地の良いインテリアと多様なイベント

原:今日はイラストレーターさんが個展と即売会を行っていましたが、COCOスペースはどんな方に利用されていますか。

今野:主な利用者は女性や主婦の起業家さんが多いです。デザイナーや手作りのお菓子を販売する方、楽器の演奏者や、いろいろな講座の先生とかですね。夜は集中してパソコン作業や試験勉強を行いたい方などにも利用されています。

原:お客さんは近隣の方々が多いのでしょうか。

今野:それが遠方の方のほうが多いんですよ。特に最初の1年目は8割が遠方からの利用者でした。札幌市内はもちろん、市外からのお客様も多いです。開業2年目からは近所の方も徐々にお越しいただけるようになってきました。

原:それは意外でした。駐車場スペースも多いですし、車で来やすいというのが逆に良いのかもしれませんね。

今野:北海道だと車移動がメインのママさんも多いので、札幌駅や大通などの街の中より、ここのほうが車で来やすいと言われますね。

原:通常のコワーキングスペースと異なり利用者さん同士の距離がすごく近く感じますが、イベントスペースというわけではないんですよね。

今野:口コミで広がりイベントスペースとして利用されることも多いのですが、おしゃべりNGの集中スペースもあります。仕事や作業、打ち合わせをする人もいれば、販売や教室を行う人もいます。横で何か始まったから一緒に参加して楽しんだり、皆さん思い思いに活動されています。

濱内:どのようなイベントが開催されているんですか。企画はすべて今野さんが?

今野:読書会や料理教室、マッサージセッション、ネイルアートなど、多種多様なイベントが開催されています。最近好評だったのは、北海道のフルーツを使った料理教室や、アイヌの料理を学ぶ実習会などです。

企画は基本的には利用者の方からの提案を受け入れる形で進めています。皆さんのアイデアを大切にし、それを実現する場を提供したいと思っています。もちろん、私自身もイベントの企画に関わることがありますが、それ以上に利用者同士の繋がりを重視しています。

偶然の出会いが生む新たな価値

地域で収穫された新鮮な果物の持ち込み販売(不定期)など、おもちゃ箱のような楽しさにあふれる店内

濱内:ある意味、COCOスペース自体がコミュニティにもなっているのかなと思いました。 そのようなコミュニティ運営が成功している秘訣は何でしょう。

今野:なぜか良い人ばかりが集まってくる、という感覚ではあるのですが、根っこにあるのはやっぱり信頼なんじゃないでしょうか。利用者一人ひとりと丁寧に向き合い、意見を尊重することが大事だと思います。

濱内:今野さん自身が信頼されているから、信頼できる人が集まってきて、つながりが広がってる気がしますね。

今野:つながりと言えば、ここで出会った方同士の連携から、さらにまた新たなコミュニティへと広がっているのも非常に面白いなと感じているところです。

例えばある日、札幌大学の先生達がCOCOスペースの視察に訪れました。その視察メンバーの中に、札幌大学でアイヌ文学を日々勉強している学生団体『ウレシパクラブ』の先生もいらっしゃったんですね。で、たまたまその視察の日、コワーキングスペースでは、アイヌの方とそのお知り合いの方が過ごされていて…そこでアイヌ文化をきっかけにした新しいつながりが生まれました!

その後、ウレシパクラブの学生さんにアイヌ料理を学んでもらうためのコラボイベントなんかも開催したんですよ。

原:たまたまや偶然が重なって生まれる新しい価値!セレンディピティの生まれる場所なんですね。

今野:ここではそんな偶然の出会いが多く、そこから自然発生的に新たなコミュニティがつくられ、新しいアイデアやプロジェクトがどんどん生まれていることがここの一番の魅力です。人と人との繋がりが次々と広がっていく様子を見ていると、この仕事をしていて本当に良かった!と大きな喜びを感じます。

原:COCOスペースが携わっている地域プロジェクトの具体的な成功事例はありますか?

今野:地元の特産品を使った地ビール作りプロジェクトがあります。西岡地区で取れるホップを使って地ビールを作るというアイデアが地域の商工会議所から出て、そこから地域全体でのプロジェクトに発展しました。現在は『西岡水源地通りビール』として商品化に向けて動いており、COCOスペースも盛り上げメンバーの一員として携わっています。

参考)西岡水源池通りビールプロジェクト 公式サイト
https://beer.nishioka-brand.jp/

地域活性化のプロジェクトも次々と誕生

取材時には、ガレージで地域のアーティストによる作品の展示即売会を開催していました。

濱内:地域の活性化にも繋がっているんですね。

今野:そうですね。地域の特産品を使った商品開発やイベントの開催を通じて、地域の魅力を発信していけたら、またその活動の拠点にしていただけたらと。また、地域の課題解決にも積極的に取り組みたくて、地元の学校との連携や地域住民同士の交流を深める活動も行っています。

原:学校ですか?それはどういった経緯で?

今野:地元の中学校との連携で、生理用品の無料配布プロジェクトを実施しています。COCOスペースで、生理の貧困問題に取り組むためのセミナーを開催したのがきっかけで、その結果として学校に生理用品を提供することになりました。

濱内:セミナーやイベントの場所を貸して終わりではなく、利用者を巻き込んできちんと次の行動につなげる取り組みまで支援されているのがすごい!

今野:気づいたらいつの間にか巻き込まれていることが多いのですが(笑)。地域のプロジェクトは大きな収益があまり見込めないとか、関わる人が多いので進めるのにとても時間がかかるなど大変なことも多いのですが、やってみると楽しいが勝るので、地元の繋がりを強化する活動は今後も続けていきたいです。

低価格で魅力的なコワーキングスペースの収益向上戦略

原:集客は順調ですか。経営上の課題などあればお聞かせください。

今野:おかげさまで、利用した方が皆さんいろいろなところで紹介してくださっているようでお客様は多いのですが、コワーキングの利用料を安く設定しているため、収益面では試行錯誤中です。

濱内:1時間300円からと利用する側としては嬉しい価格ですが….今後は収益を増やすための新しいアイデアも検討していきたいところですね。今はコワーキングスペースの利用料以外にも何か売上がありますか?

今野:「COCOスペース」という雑貨などの委託販売ができるレンタルボックスコーナーを設けており、期間ごとに貸し出しています。こちらが空き待ちが出るほどの人気でひとつの収益の柱となっています。あとは、メインのスペースを全面貸し切ると最大26名入るので、ミニコンサートやマルシェなどのイベントに利用されています。

ステキな雑貨がところせましと並ぶ、委託販売コーナー。このコーナーを目当てに訪れるお客様も多いのだとか。

濱内:キッチンもあるので、食べ物関連のイベントも開催できるのが強みですね。あとおしゃれなので、写真や動画も映えそうです!

今野:利用しやすさはそのままに、やりたいことと経営のバランスを取りながら、地域の皆さんとの繋がりを大切にしていきたいです。他のコワーキングスペースの成功事例も参考にしながら、自分たちに合ったビジネスモデルを模索していきたいと思います。

店舗内にはキッチンがあり、調理が必要なイベントにも利用できるのがユニーク。

起業を考えている方へのメッセージ

原:最後に起業を考えている方へのメッセージをお願いします。

今野:起業するなら、まずは副業として始めるのも良いと思います。そしてやりたいことを決めたら、お金を貯めることも大切です。あとは反対されても、自分の信念を持って進んでいけば必ず助けてくれる人が現れます。

濱内:今野さんも最初はみんなに反対されたと言ってましたものね。

今野:本当に、みんなに反対されましたね。相談した人に全員にそんなのうまくいかないよと言われました(笑)。あとははっきり反対とは言わないけれど、「頑張ってね」と言いつつ、去っていく人たちもいました。

でもそのとき反対した人たちは今、周りにはいません。その代わり、起業してから新しく出会った人たちがいつも助けてくれています。何かあったらすぐに相談できる、頼ることができる安心感のある仲間に囲まれていて、めちゃくちゃ幸せです。

原:それはこのビジネスをやり始めたから出会えた人たちですよね。

今野:そうですね。あんまり反対しかされないので最初は不安でしたが、実際に動いてみると新しい繋がりが生まれ、毎日が楽しくなりました。

今野:何より、やっぱり自分がやりたいことをやっているという実感があるのがいいですよね。不動産の仕事をしていたときに不満はなかったと話しましたが、1日がこんなに楽しく終われるっていうのは、不動産の仕事をしていたときはなかった。今はもちろん身体としては「疲れたー!」って思うときもたくさんあるけれど、でもワクワクとした考えが常に頭の中にあるので毎日が楽しいです。

原:元々は起業願望があったわけではないとのことでしたが、結果的には独立起業して本当に良かったですね。

今野:それは思いますね。この先5年後10年後にどう思っているかはわかりませんし、最初に自己資金400万を使い切ったときには、本当にいいのかな、うまくいかなかったら痛いなぁーと思っていましたが。今はあの時に一歩踏み出して良かったと、あの時決断した自分に感謝です。

濱内:実体験をもとにした生々しいメッセージありがとうございます。お話を聞いてると、今野さんの周りには、その魅力に惹かれて素敵な人がたくさん集まってるんだろうってことが伝わってきました。でもだからこそ、事業としてはなかなかスケールできない、今野さんが絡んでいかないと動かないっていうジレンマを抱えているんですよね。今後、よりスケールするようなビジネスアイデア、ビジネスモデルとか見つけられると良いけれど。

でもなんか、世の中に求められてる場所という存在がすごくいいです。もっと広がって欲しい!今後も期待しています!

今野:ありがとうございます。

取材後記

訪問する前は、コワーキングスペースといえば街の中によくあるシェアオフィスのようなイメージを持っていたため、公共交通機関の最寄り駅が近くにない郊外で、どのように運営されているのだろう?と思っていたのですが、「COCOスペース」は、そういった一般的なコワーキングスペースとは一線を画すコンセプトで成功されていました。

地域のコミュニティの中心となる、まさにサードプレイスと呼ぶのにふさわしい居心地の良い空間にすっかり魅了されてしまいました!

今野さんの情熱と巻き込み力で、これからも新たな価値がどんどん生み出され、地域の活性化につながっていきそうです。

最新のイベント情報はinstagramやfacebookなどで発信されているので、興味のあるイベントに足を運んでみてはいかがでしょうか?

 

取材協力

COCOスペース 代表 今野 純子さん
 住所:〒062-0034北海道札幌市豊平区西岡4条13丁目1-14
 電話番号:090-9437-0505 
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