地方で起業するってどうなの?北見市の女性起業家と起業支援の実例

ローカルアントレプレナーを応援している「ロカプレ!」。ローカルって言いながら札幌の話ばかりじゃないかと思っていた読者の皆さん、おまたせいたしました…

今回は札幌を飛び出して、北海道の東側、道東地方へ。

オホーツクで一番大きな街「北見市」の起業家と起業支援の実情を探るべく、地域で女性起業支援を長年行っている鹿又百合子さんに話を伺いました。

子育ての一段落やコロナ禍の落ち着きを機に、40代半ばから50代の女性による起業が増えているとのことで、ローカルなビジネス独自の集客や情報発信のトレンドなどを取材。

そして女性経営者として10年以上のキャリアを持つ女性起業家の大先輩、鹿又さん自身の起業エピソードについても教えていただきました。

(取材日:2023年8月・インタビュー/文:原くみこ)

ロカロウ
札幌以外の地方でも、起業する人がどんどん増えているみたい!
id.DESIGN-OFFICE 代表 鹿又百合子(かのまたゆりこ)
北海道北見市出身。就職、結婚・出産・育児をしながらの在宅ワークを経て2012年にデザイン会社「id.DESIGN-OFICCE」を起業。2017年に起業支援事業「ワタシらしく働くお手伝いワタシプラス」をスタート。2018年 経済産業省 第1回女性起業家支援コンテスト総合部門で最優秀賞を受賞。オホーツクを中心に女性の活躍支援・起業支援活動を展開。

北海道北見市の女性起業の今

 

原:長年、オホーツク地方の女性起業支援を行われている鹿又さんが、特に最近感じられている女性起業の傾向があれば教えていただけますか?

鹿又:北見周辺の女性起業のトレンドとしては、数年前までは『おうち起業』と呼ばれるスタイルが流行っていました。趣味や得意なことを活かして、自宅でちょっとした教室を開いたりするイメージです。最近はそういったスタイルに加えて、融資を受けて店舗を借りて行うような、覚悟をもって起業する傾向が増えています。

原:そうなんですね。どのような方が起業されているんですか?

鹿又:40代半ばから50代の方々が増えている印象です。子育てが一段落し、コロナも落ち着き、いよいよ自分の関心のあることをしたいと思った、そんな方からご相談を受けることが多いです。

原:それまでのお仕事経験などを活かして、という方が多いのでしょうか?

鹿又:もちろんそれもありますが、まったく新しい挑戦をする人も多いですよ。試しにイベント出店を何度か行って手応えを感じてから店舗を構える場合や、フランチャイズを利用して開業するケースもありますね。

原:鹿又さんが実際に支援された起業事例を教えていただけますか?

事例1.ワークライフバランスを重視しFCオーナーとして起業

鹿又:一人目は、プリン専門店「極生プリン専門店こい」さんです。

鹿又:こちらは50代のオーナーが展開していて、元々そういった仕事をしていたわけではなく、フランチャイズでの起業です。

原:今はフランチャイズも色々なものがあるんですね。

鹿又:特徴としては、一日の販売数を決めていて、毎日、売り切れ次第営業終了、としている点ですね。かなり早い時間に売り切れてしまうほど人気ですよ。製造、販売する量を調整することで、忙しさや売上をある程度コントロールできる仕組みなのが面白いなと思いました。

原:起業するときに何を重視するかは人によりますが、ワークライフバランスを大事にしたい場合はそれが実現できるやり方を選ぶのも大事ですね。

事例2.こだわりを追求!自宅の庭でビジネス

鹿又:あとは、週2〜3日だけ営業する「壺やきいも屋 けらあん」さんもユニークです。

鹿又:こちらもオーナーは50代の女性。自宅の庭に壺を並べて、そこで焼きいもを作っています。取り置きをお願いしないと手に入れるのは難しいほど、人気です。

原:庭で!新たに物件を借りなくても工夫次第では色々なサービスを始めることができますね。それもローカルの強みかもしれません。マンションのバルコニーで焼き芋焼いていたら、近隣に怒られそうですから(笑)

鹿又:たしかに、無料だったり安く使える場所は、都会より多いかもしれません。

原:またそのお店でなければ手に入らない、そういった独自性の高い商品やサービスを提供できると強いですね。

鹿又:小さな規模のビジネスだからこそ、とことんこだわることができる、という面白さはありますよね。

事例3.既存サービスの間をつなぐ、妊婦さんの出産前後のサポート

原:飲食店以外の事例はありますか?

鹿又:医療関係やボディケアの知識・経験のある方が、従来の枠組の中ではお客様や患者さんに寄り添うことができていないと感じて、その差を埋めるために独立されるケースもあります。

原:セラピスト的なお仕事ですか?

鹿又:セラピストも以前からありますが、最近ではさらに深い悩みを解決するようなサービス提供者が増えています。例えば、元看護師のフリーランス助産師による、妊婦さんの出産前後のサポートサービスがあります。

北見は転勤族が多く、さらに近隣市町村では産婦人科がない町もあったりと、妊娠中や出産後の不安や悩みを相談できる身近な人がいない、というママさんも少なくありません。

その方は病院での勤務経験から、不安を抱える妊婦さんたちにもっと寄り添いが必要だと感じていたそうです。しかし病院の枠組みでは、ひとりひとりに長く時間を使うことは難しい…そんなもやもやをきっかけに、独立を決意されたそうです。

原:既存のシステムでは対応できない、そういったきめ細やかなサポートへのニーズは、これからもっと増えそうですね。特に、地方都市では人口減少に伴って公的なサービスの縮小が進んでいて、都会よりも多くの問題が起こり始めている気がします。

鹿又:そうなんです。そういった身近な問題を解決したい、会社や大きい組織では対応が難しい、それならわたしが、というのが起業のきっかけになる方も多いです。

ローカルビジネスならではの集客・情報発信のトレンドは?

原:地方都市の起業家さんにおける集客や情報発信のトレンドはどうですか?

鹿又:これまではテレビやメディアに出ることで宣伝効果を期待するのが主流でしたが、最近はそこにこだわらずSNSなどの発信に力を入れる人が多いですね。

原:ローカルビジネスの場合、紹介されることで宣伝効果が得られるメディア自体があまり多くありませんしね。SNSもたくさんの方にフォローしてもらう・見てもらうためというよりは、来店可能なお客様とのコミュニケーションツールとして活用するのが良さそうです。

鹿又:ただし、みんながみんなSNSというわけでもなくて、リアルな場でのコミュニケーションに注力する方もいます。

原:ネット販売などをしていなければ、商圏がそれほど広くないというのはローカルビジネスの特徴ですよね。地元でおすすめのお店などを知りたいときは、ネットで口コミや店の情報を調べるよりも友人に直接「あそこってどう?」と尋ねたほうが早いし、話題のお店はだいたいその地域の人はみんな知ってる、みたいな雰囲気があります(笑)

鹿又:そうですね。だからリアルな口コミや評判につながるような行動をとることが、結果的に集客にも効果があります。

原:SNSで広く情報発信するよりも、顔が見える範囲や直接のつながりを通じて広めていくほうが、ストレスなく商売ができるってこともありますしね。

鹿又:そう、ビジネス的にはスローペースでも『ストレスが少ない方が大事』と考える方はとっても多いです!

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何を重視して働くかは、その人それぞれ。売上拡大を目指すもよし、心地よく仕事のできる環境を整えるもよし!

苦手でも避けては通れない、起業したあとの見落としがちな課題

原:鹿又さんが女性起業家をサポートしてきて、これは課題だなと感じることはありますか?

鹿又:スマホしか使えない(パソコンを使えない)ために、起業したあとに苦労している人が意外と多いです。40代以上の女性だと、学生時代に Word・Excel を習っていなかったり、仕事でパソコンを使った経験があまりない方も多いみたいで。スマホだけでもある程度のことはできる時代ですが、例えばSNS に投稿はできても、書類を作成できない・プリントアウトできないなど。

会計ソフトなどや、企画を考える際のツールの使い方に苦労している方も多いですね。

原:仕事でパソコンを使う職種でなければ、別に使えなくても大丈夫だろうと思ってしまうのかもしれませんね。起業したあとには、集客・宣伝・お金の管理などの仕事も日常的に発生しますから、効率化を考えるとパソコンスキルは必須ですね。

鹿又:覚えてから起業せよとは言いませんが、「わたしそういうの苦手だから〜」と逃げてきた方は注意です。起業したら好きなことだけをしてうまくいくわけではありません。自分から何か発信するためには、ツールの使い方を学んだり、新しいスキルを身につける努力は絶対に必要だということは、あらかじめ覚悟しておいて欲しいですね。

原:起業はゴールではなく新しい挑戦のスタート!ということですね。

『女性のためのKITAMI創業相談DAY』について

原:鹿又さんは北見市が定期的に開催している女性向けの創業相談イベントで、アドバイザーとしてもご活躍されていらっしゃいます。そちらではどんなことを行っているのでしょうか?

鹿又:創業相談DAYでは、広く起業前後の方の不安や悩みの相談にのっています。ただし、必ずしも起業を勧めるわけではなく、相談された方のニーズに合わせたアドバイスを行っています。

原:起業・創業準備をすすめる一歩手前のもやもやを聞いていただける、そんなイメージですか?

鹿又:そうですね。仕事とプライベートのバランスや、いまとはちがう働き方について考え始めたときに気軽に相談していただければと思います。

原:起業を決意するまでには、家族のことや時間の使い方など、仕事以外にも悩むことがたくさんあるので、そういった不安を相談できる場所があるのは嬉しいですね。

鹿又:起業するにしても、今は色々な方法がありますし。一昔前は「起業=仕事を辞めてお金を借りて会社を作る」でしたが、今はちょっとした挑戦から始めることもできます。かといって、誰でも考えなしに始められるものではないと思ってます。そういったことを一緒に整理したり、もやもやを吐き出すだけで次の行動の糸口が見えたりしますから、まずは気軽に来て欲しいですね。

北見市では月に1回程度、女性向けの起業相談会を開催
北見市

こちらのページは「北見市」のホームページです。…

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北見以外の色々な地方都市でも起業相談会が開催されているみたい。
お住まいの「市町村名×起業相談」で検索してみて!

女性起業の先駆け、鹿又さんの起業ストーリー

原:鹿又さん自身の起業経験についてもお聞かせいただけますか?

鹿又:元々は、印刷会社・広告代理店でデザイナーとして働いていました。40歳になったら独立したいとふわっとした夢があったのですが、その目前37歳の時に独立開業を決意し、退職・開業しました。

原:独立当初から、デザイン業務だけではなく印刷事業も行われていたんですね。

鹿又: そうです。なのでパソコンの他、大型出力機などの設備を購入すること、それらを設置する事務所が必要だったので金融機関からの融資を受ける必要があり…その時は経営の知識があまりなかったので、正直なところ「主婦がこんなお金を借りて起業してやっていけるのかな?!」という不安でいっぱいでした。

原:融資と借金は意味合いが大きく違いますが、確かによくわからないと「お金借りる=怖い」という感覚になりそうです!

鹿又:それで女性起業家のロールモデルを知りたいと思い、商工会議所や金融機関に行って情報収集をしましたが、当時はどこに行っても女性起業の参考になる情報がまったくなくて(苦笑)

原:ちなみに12年前はどういう時代だったかというと、LINEがまだなくてmixiが全盛期の頃ということで…。情報収集をするにも、今とはずいぶん状況が違ったでしょうね。女性の起業支援に携わるようになったきっかけは何だったんですか?

鹿又:わたしが創業した少し後の2012年頃に『女性の社会参画支援』に対して国の予算がつきはじめたんですよね。その流れで北海道でも、男女共同参画とか、女性活躍推進に関連した取り組みが始まりました。

原:最初は国が主導だったんですね。

鹿又:ただ「始まるよ!」となっても、まだ起業している女性が少なかったので、みんな何から始めよう?みたいな状態。それで自然と「鹿又さんの起業経験談を聞かせて欲しい」とか、そういうお声がかかるようになって。自分の経験が誰かの役に立つんだ?と驚きつつも、できることがあるならと、女性の社会参画支援に携わるようになりました。

原:そう考えると、女性の起業が当たり前ではなかった時代から、まだ10年くらいしか経っていないということですよね。

鹿又:ね。わたしが起業した頃と比べると、環境はずいぶん変わりましたね!女性が起業するのも特別じゃないし、活躍できる場がどんどん広がってますよね!

経営者・起業支援・教員、すべては未来の女性たちのために。

原:鹿又さんは本業のデザイン会社の経営、そして女性の起業支援に加えて、市内の中学校で美術の先生もやっているとか?

鹿又:そうなんです。実は週に1回、中学校で美術教員として働いています。

原:なぜ先生を?!

鹿又:女性の起業支援を通じて、色々な悩みを聞くと、自分の価値を低く見すぎていたり自信を持てない女性がすごく多いと感じます。また、悩みを深掘りしていくと、結局子供の頃の失敗・成功の経験が、いまの価値観にも影響を与えているんですよね。

そんなことがきっかけとなり、いまできることは何かと考えて。中学校美術の教員免許を持っていたので、それなら学びを通じて子どもたちにキャリア教育を提供できるのではないかと思い、教員としての活動を始めました。

原:では普通の美術の授業、とはちょっと違うことも行ったりしているんでしょうか?

鹿又: 中学校では、美術の授業やキャリア授業を通じて、子どもたちに「今の気持ちをアウトプットしよう」「自分軸で行動しよう」ということを促すなど心掛けています。やりたいことを口に出して叶える経験を通じて、将来の選択肢が広がるようサポートしています。また、他中学校や高校生などのインターンシップの受け入れや職業講話も行っています。

原:自分が子供の頃は『学校以外の場所でも働いている先生』という方は身近にいなかったので、生徒たちにとって鹿又さんの存在自体がひとつのロールモデルになりそうですね。

鹿又:新しい刺激や、気づきを与えられているとしたら嬉しいです!

原:最後に、今後の夢や目標があれば、教えてください。

鹿又:これからもさらに女性の活躍を応援したいと思っているので、さまざまな状況の女性が、柔軟に色々な働き方ができるような『場』を作ることもやっていきたいなと思っています。

具体的にはコワーキングスペースだったり、全国転々とするアドレスホッパーの方や海外の方でも利用できる保育園を開設するとか?この地域の中と外の人たちが交わりあい、地域社会に新たな価値を提供できる場所が作れたらいいなと思ってます。

本日のまとめ

北見市の女性起業家たちの実例や、起業支援の実態についてお話をお伺いしました。

自宅の庭をビジネススペースに変えたり、フランチャイズでワークライフバランスを追求するなど、多くの女性が自分の興味や経験を生かし、地域に根差したビジネスを展開しています。

また、地方都市特有の集客方法や情報発信のトレンドにも触れ、SNSを活用しつつも地元コミュニティとの直接的な関係構築が重要であることを教えていただきました。

鹿又さん自身の多彩な活動のお話、色々な顔を持ちながら地域社会と関わっていくという新たな働き方の事例も参考になりました。

起業のかたちもさまざま、地域ごとの特色や環境も活かしながら、自分らしく働ける人が増えると良いですね。

 

取材協力

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