創業初期の融資と計画的なお金の使い方とは?「お金」についての不安を税理士にお伺いしました。

起業を考えたときに不安になることのひとつである「お金」

「今ある自己資産で足りる?」「融資を受けたいけどどうしたらいいの?」など、わからないことが多く悩んでしまいますよね。

そんな「お金」についての不安を、札幌のやさしい税理士事務所 代表税理士 利木貴志さんにお伺いしていきます。

創業・起業初期に使える融資や計画的なお金の使い方について、詳しく教えていただきました!

(取材日:2022年5月・インタビュー:濱内勇一・文:中尾唯)

ロカロウ

創業時の「お金」についての不安を少しでも解消しよう!

札幌のやさしい税理士事務所 代表税理士 利木貴志(りき たかし)

1975年7月生まれ、北海道旭川市出身、北海道大学法学部卒業。税理士(登録番号124103)、公認会計士(登録番号028359)、経営革新等支援機関。趣味はマーケティングとマラソンと温泉とキャンプと野外FES。

起業に失敗するパターンの一つは「お金が足りない」

濱内:利木さんは税理士として様々な経営者を見てきていますよね。その経験の中で「こういう人は起業に失敗しやすい」というパターンってあるんでしょうか?

利木:ちょっと税理士から外れるかもしれないですが、失敗するパターンのひとつに「お金が足りてない」というのはあります。これは重要。

創業時にお金が足りていないなら融資を受けるべきなのですが、融資にアレルギー反応があって拒否してしまう、お金は借りたくないという人は多いです、意外に。

濱内:その「融資はあまり好きじゃない」という方は、その必要性もそんなに感じていないというか、資金は足りていると思っているのでしょうか。

利木:そこまで深く考えていない気がします。やろうとしていることに対して、どこにどのくらいお金を使うべきかといった意識の話というでしょうか…。

濱内:お金の使い方の判断軸がずれている?

利木:そうですね、例えば税理士でもなんでも外注先を「値段で決める」とか「これは投資だから」という傾向がありますね。

創業時はお金の使い道を見極めよう

利木:あとは経理と営業を分けて考えている経営者の方でしょうか。「経理に興味がない、経理はおまかせしたい」こういった人は上手くいかない傾向を感じます。事業が大きくなってからならともかく、起業したばかりですからね。 

濱内:売上をどう作るかには興味があるけれど、お金を上手に使うのは苦手、という人は多そうですね。

利木:他には「これがうまくいったらこうなるから大丈夫」というタラレバの話が多く、「ではそうならなかった場合は?」に対してあまり考えがない方も要注意かと。

濱内:なるほどですね、経営計画が「絵に描いた餅」になってしまっている場合ですね。

利木:そうですね。お金の使い方は、先々のことをよく考えてから決めていかなければなりません。例えば、ホームページが必要だとします。最初からお金をかけて豪華なものを作るのではなく、最初は最小限の内容であまりお金をかけないで作ってみて反応を見てみるべきかな、と。創業当初はできるだけ支出を減らすことが大切です。

濱内:お金がこの先いつまでもつのか、発注する前に一度冷静になって考える必要がありますね。

利木:創業資金がどれくらい必要かは、業種によって大きく変わってきます。その辺は税理士がよくわかっています。税理士とお金の使い方について相談しながら進めていけるといいですね。

ロカロウ
10年、20年と長くうまくいっている企業のお金の流れを見てきているから、税理士さんはわかるというわけだ!

成功する創業者は、押しが強い!?

濱内:先ほど話に出た「経理はお任せしたい」という人は、普段の記帳など事務的なものを任せたいのか、それとも、損益計算書貸借対照表も興味ないのか、どのようなレベルですか。

利木:両方ありますね。「仕事がくればなんでもオッケーです」という雰囲気の方もいらっしゃいます。

濱内:そうなんですね、両方に興味がなくて全部任せたいようない方もいらっしゃるんですね。

利木:います。でも興味ないと言っても「難しいわ」で放置だとうまくいかない。それなりに結果を出している人は、経理も最低限はこなしている人が多いです。 

濱内:まあ、確かにそこはそうですよね。逆に、経理事務の部分をかなり気にしていても、別に儲かるとは限らないですよね。

利木:そう、それも真実で。話はちょっとずれますが、起業したばかりってやっぱり「社長力」のようなものは重要です。それは人がいいとかだけではなくて、「押しが強い」ということも大事。「こんな人いない?」や、「お願いお願いお願い」ができる、影響力がある社長というのは、周りの人を巻き込んでいくので、売上も自然と付くべくして付いてくる、という印象があります。このことは本当に重要なですけど、あんまりネットにも書かれていないですよね。 

ロカロウ

人をどんどん巻き込んでいける影響力も大切なんだ!

利木:そして、そのような「社長力」の高い人すべてが経理に興味を持っているかというと、そうでもなくて。持っていない人がいるのも確かですね。

濱内:そうなんですね。

利木:経理や事務のことは無視しても、業務をガンガン回していけば、十分事業として形にはなってきますからね。まあこれはこれでサボっているわけでもなく、ハンパなく行動していますから、いいのかなとも思います。

濱内:勢いですね(笑)。

利木:税理士泣かせではあります(笑)。

融資というのは時間を買うという行為でもある

濱内:では、次に資金調達の話です。ここまでにも何回か話が出てきていますが、起業時に融資に関して相談を受けたとき、税理士さんはどのような提案をすることになりますか。

利木:「融資は借金だからやめましょう」という税理士さんが多いかと思います。しかし僕は逆の立場です。手元にキャッシュが十分にあって、融資で受けたお金の使い道がまだなかったとしても、融資は受けたほうが良いとアドバイスします。

設備投資するものがあるのであればなおさら、「それは融資を受けて払って下さい」という立場ですね。

濱内:そうなんですね。融資を積極的に受けるように、とアドバイスする税理士さんのほうが少ないんですね。

利木:僕がどうして融資をおすすめするかというと、当たり前ですけどその方が資金がショートしづらいからです。

濱内:なるほど。

利木:例えば、今200万円を持っていて200万円の設備投資をするとするじゃないですか。Aさんは借金がいやだから、自分の200万円を投資に入れます。もう片方のBさんは200万円持っているけど、200万円融資を受けたとします。

そこで、その事業が失敗して200万円が消えたときに、Aさんの方は自己資金がもうないので復活がほぼできません。お金がないから人を雇えない、場所も借りることができない、仕入れもできない。当然融資も受けられない。

濱内:Bさんの方は、200万円失敗した後どうするんですか?

利木:まず借りていたお金に関しては、約定通りに返済を、例えば月5万円の返済で約束しているならその条件で返していけばいいだけです。200万円失敗した瞬間に200万円返さなきゃいけない訳ではありません。

濱内:200万円借りたBさんが失敗しても、手元のキャッシュが200万円あるから、これをきっかけに再起できるってことですね。

利木:そうですね。この時点で、軍資金が0円の人と200万円ある人を比べると、復活できる可能性は大きく違います。借りないで自己資金を投資して、うまくいかなくて0になってしまうことは、普通にあることです。

ロカロウ

再起のチャンスがあるかないかということか!とても大切なお話だね!

濱内:でも借りたお金で失敗したら、、、銀行から怒られたりしませんか?

利木:貸した側としては、約定通りに返してくれたら怒りません。返せなくなりそうでも、事前に相談すれば月3万円でも2万円でも返してくれたらいいですよ、という感じです。事業とは別のアルバイトで返しても良いです。

濱内:借りる時には色々と審査されるけれど、借りた後はとにかく返済すれば良い、と。

利木:そうです。だから借入融資というのは、時間を買う行為とも言えます。

濱内:なるほどね。名言きた!融資を受けるなら創業時がおすすめ、と。

お金に困ってからではもう遅い

利木:「時間をお金で買う」って、よく言うじゃないですか。「融資は借金」と思うから怖い感じがするかもしれませんけど、ビジネスにおいては本当にお金は時間そのものです。ですから、「設備投資するなら借りてやりましょう」ということです。

しかし、中には「融資は困ってからお願いすることにします」と言う方もいらっしゃって。

濱内:困ってからの融資のお願い。

利木:そう。そして「困った時に金融機関がお金を貸してくれないから残念」という話をされる方もいます。

濱内:まぁ、困ってるんだから助けてよ、って思う気持ちはわかりますけどね。

利木:初めて会った人に「すみません、ちょっと僕、今事業失敗してお金なくなったので10万円貸してくれませんか」と言われても、貸せないですよね。返してくれるのかわからないから。

でも「僕○○石油会社の社長の息子で、10万円落としちゃって貸してくれませんか」という人がいて、その身分が本当なら、まぁ返してくれるのかな、と思えるので貸せるじゃないですか。

濱内:確かに、貸せますね(笑)。

利木:それと同じで融資を受ける時、自分がお金を返せるぞという証明をする必要があるんですね。そこで必要になるのが、決算書です。その決算書には、売上が書いてあったり、利益が載っていたり、預金がいくらあるかなど記載されています。

金融機関に融資の申し込みをするとほとんどの場合、「決算書を3期分ぐらい持ってきてください」と言われます。なぜなら例えスケールは小さくても、3年かけて徐々に積み上がっている実績が見えるからです。

その積み重ねがきちんとしていれば「将来性があるから貸してもいいかなって」思ってくれます。

濱内:将来性ですね。

利木:でも、「困った!借りる!」という人の決算書は、売上が当然あがってないし、先行投資の経費を使い過ぎて赤字ですし、預金に手をつけて経営のための資金が不足しているわけだからその後の選択肢も少ないですよね。つまり将来性がない。

濱内:もう間もなく丸焦げになろうって人には貸さないですよね。

利木:ちょっと厳しいですよね。だから困ってから借りようとしても、時すでに遅し融資は必要、借りるのが正解だし、借りるタイミングは創業してすぐの方が良いということですね。

幸い、国の創業融資というものがあり、起業したての方を応援するための融資商品もありますから、使えるならぜひ使ってほしいですね。

創業融資とは

濱内:次に、その創業融資の話についてお伺いします。わたしも創業融資、というものがあるのはなんとなく聞いていましたが、この「創業融資」というのは、何がどのように良いのですか?

利木:借りやすい、ということです、これに尽きます。普通起業したばかりだと、実績がないので借入条件が良くなるポイントがひとつもありません。

しかし、創業融資は、国が「貸しなさい」と金融機関に言っているので、一定の金額を貸し出さないと国から指摘が入ります。まあノルマではないけどそれに近いものはあります。

濱内:金利は高いんですか?

利木:若干高いです。正直。でも全然誤差レベルです。

濱内:そうなんですね。

利木:実はそんなわたしも、一番最初は「借金なんて」みたいな感じでした。でも、今は声を大にして「もうとりあえずみんな借りたほうが良いです!」と言っています。借りやすい制度が使える時に使ったほうがいい。

濱内:再起不能になってからでは、遅いですものね。

利木:また、必要がなくてもとりあえず借りておいて返済をきっちりしていると、それがひとつの実績になります。銀行への信用残高が上がっていく。これで、本当に困ったときに借りやすくなるというメリットもあります。

濱内:初期から融資のお付き合いが始まっていて、その後もちゃんと返せていたら「返済できるまともな会社だな」と認識してもらえますよね。

利木:はい、追加融資も入りやすくなります。

濱内:追加融資は、融資の返済中に追加で借りる融資のことですよね。銀行からすると、貸している間に潰れたら困りますもんね。

利木:そうです。なんとかして頑張って持ち直して全部返してくださいみたいな。

濱内:追加融資というチャンスを与えて、そして復活してもらうということですね。

利木:創業融資の時に借りておくと、融資を貸す貸さないの主導権をこっちがにぎることにもなります。そのためにも、できるだけ早い段階で借りておく事が大事です。いざ困ってからだと、主導権は金融機関の側にあるままですから。

コロナなどの想定できない事が起きた際も、金融機関との繋がりがあれば借りやすくなります。

長くビジネスを続けていくためには、やっぱり資金が必要

濱内:とはいえ、融資を受けるべきかどうかは、もちろんどういうビジネスなのかにもよりますよね。少しずつでも人を増やして、売上規模を拡大していきたいと考えているなら、この先拡大するためのキャッシュが必要になりますが。

変わらず細々とひとり社長で、というのだったら融資はいらないかもしれないですね。

利木:そうですね。パソコンひとつでフリーランスになり法人成りして、そういう事業でこの先も進めていくのであれば、無理に融資を受ける必要は無いですよね。

濱内:ポイントになるのは「融資は借金!怖い!」みたいなイメージで判断するのではなくて、リアルなお金が手元にあった方が良い状況かどうかという話だなと思います。

利木:そうですね。「退場を避ける」ですね。ビジネスから退場させられるときというのは、売上がない時ではなく、支払いに必要なお金がなくなった時なので、お金は余計に持っておくべきですね。

特に、このコロナ禍では手元にお金があったから乗り越えられた、という人はいます。売上が立たなくても固定費は出ていきます。借り入れのお陰でなんとか乗り越えられれば、元々利益が出ていた会社であれば、時間さえ経てば徐々に戻ってきて、コツコツ返済していくことで持ち堪えられる可能性が高まります。

ですので、緊急事態を乗り越えられる分のお金は持っておくべきです。

8割の起業がうまくいかない現実

利木:今の時代は、10年前、20年前に比べると起業しやすいはずなんですよ。パソコン、インターネット、Googleがあるし。(コロナ禍はありましたが)インバウンドでいっぱいお客さん来るなど、チャンスが拡大しています。

濱内:法人になるハードルもかなり下がりましたよね。

利木:株式会社は20万円くらい、合同会社なら10万円くらいあれば、すぐ作れちゃいます。

濱内:特に資本金が、20年前は株式会社を作る時に最低1,000万円が必要でしたが、今は1円でもいい。

利木:ホームページを作るのも、以前は100万かかるのが普通という時代があった。でも今では極端にいえば無料でもできるじゃないですか。SNSも利用できます。

濱内:そうですよね。

利木:昔と比べれば、常識っていう枠は結構なくなっていて、何でも好きなものができる時代です。そこに起業のチャンスがあります。コロナ禍があって少し冷え込んだという事実を差し引いても、いい時代ですよね。

ロカロウ

誰でも起業できる時代!

利木:その一方で、起業は甘くないですよ、という話はある。単に「起業する」というのは100人いたら100人できます。でもそこからほとんどが、辞めるまでいかなくても、同じところをぐるぐる回る感じで成長しないんです。そこでコロナ禍などのイレギュラーな事態が発生すると、途端に苦しくなる。

感覚的に8割の起業は上手くいかない。そういう現実も知っておかなければなりません。

起業は、お金の流れをたくさん見てきた税理士と二人三脚でやっていくことがおすすめ

利木:起業するのは簡単だけど、続けるのは甘くはない。だからこそ、起業が得意な税理士さんと付き合って、二人三脚で必死に登るというか。楽にはいかないです。経理だけでなく、お金の使い方についてもサポートしてくれる人を選ぶべきですね。

端から見て厳しそうと思われても「無理じゃない?」とは誰も言ってくれません。困りそうだって分かっていても人のことだから。

濱内:いや、本当そうですね。「キャッシュがなくなりました、税金も払えません。」となると、倒産で廃業じゃないですか。ビジネスがまわって、お金がちゃんとまわって利益が還元されていく、それを続けていくことが、起業というか。潰れるために起業はしないですよね。

利木:そうなんですよ。

濱内:おっしゃる通り、起業は甘くない。上から目線とかじゃなくて、すべて自分でできれば素晴らしい話かもしれないけど、知らないことがいっぱいあるし。

利木:経営のお金に関することをすべて一から勉強していくには、時間がかかりすぎます。

濱内:税理士さんはそれを見ている職業なので、やはり知っている事が多いということですよね。

利木:そうですね。「お金」ってビジネスの「血液」みたいなもので、足りなくなったら苦しいし、借りるという輸血をしなければ、死んでしまいます。でも「お金」が足りなくなっている、というのは、気づきにくいんですよ。

丸投げしがちな社長さんは、自分のお金も把握できていない事が多いので、そういう意味でもちゃんと自分でやるっていうのが大事。

濱内:いやー、でも本当あれですね。すごく納得がいく単純な話ですね。やっぱり税理士さんは、お金の流れを沢山見ているから、そりゃ詳しいに決まっていますよね。

利木:そうですね。

濱内:本日はいろいろと聞かせていただき、ありがとうございました!

創業時から先を見据えた資金計画を立てよう

たくさんのお金の流れを見てきたからこそ知っている、長く経営し続けることの難しさを教えていただきました。

誰でも起業できる時代に長く生き残っていくためには、資金繰りはとても重要ですね。苦しくなる前に税理士に相談して、先を見通した計画を立てていくことが大切だとわかりました。

必要ならば、融資を受けることも検討する必要があります。早めに相談しやすい税理士を見つけましょう!

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札幌のやさしい税理士事務所 代表税理士 利木貴志(りき たかし)

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